免許制度の簡素化について

 現在の日本の制度では、アマチュア局を開設するときには、無線設備が技術基準に適合していることを示すための手続きが必要となります。無線局を開設後、無線設備を変更する場合には、変更の内容によって、届出でよい場合、事前に許可が必要となる場合がありますが、変更後の無線設備が技術基準に適合していることを示す手続きが必要となります。

 これらの手続きとは、無線設備が適合表示無線設備(技術基準適合証明を受けた無線設備、工事設計認証を受けたメーカー等により製造された無線設備等)であることを示すこと、検査(一部を登録検査等事業者による点検とする場合を含む。)を受けること、無線設備の保証を受けることです。無線設備の変更により指定事項(周波数、電波の型式、空中線電力)が変更となるときには、さらに指定事項の変更のための手続きが必要となります。

 欧米のアマチュア無線の制度においては、無線設備の技術基準適合遵守を免許申請者や免許人の自己責任として技術基準適合を示す手続きを不要とし、また、無線局の免許において周波数、電波の型式、空中線電力の指定をしないという制度があります。

 欧米のような制度を日本で実現するためには、アマチュア局をアマチュア業務以外の無線通信業務の無線局に対して特別扱いをしなければなりません。アマチュア局から他の無線通信業務の無線局への干渉の可能性が特別低いということはなく、アマチュア局免許人が他の無線通信業務の無線局免許人に比べて技術基準適合管理に特別高い能力を持つということもないでので、アマチュア局を特別扱いする合理的な理由を見出すことは困難です。日本の現在の制度の枠の中で検討する限りは、このような欧米の制度を導入する可能性は極めて低いだろうと思います。

 しかし欧米のような制度が現に存在しており、これが世界的に主流となっている制度であると主張できれば、日本も世界のスタンダードに従うべきという主張は可能です。このような主張によりハードルがたちどころに下がるという可能性は低いと思いますが、他に主張できる根拠が見当たらないというのも現実です。

 欧米のような制度の実現を今後とも要望し続けることはもちろん必要ですが、一方で可能性のあるところから制度の簡素化を達成していくことが重要です。

電子QSLシステムに関する答申について

 

 QSLの電子化(電子QSLカードの交換、交信データの電子的照合確認)は世界的な動向であり、これを否定する余地はないと考えます。電子QSLカードの交換を行わない場合であっても、照合確認結果がアワードの申請に利用されるのであれば、QSLカードの交換と同じ意味を持ちます。一方で、JARLと各国アマチュア団体等との紙QSLカード転送業務は、両者にその希望がある限りは継続されるでしょう。また、国内の会員間の紙QSLカードの転送業務も会員にその希望がある限りは継続するでしょうから、転送数は減少しても紙QSLカード転送業務が全廃することはないと思われます(紙QSLカード2018 年度転送実績:国内793 万、国際135万)。

 QSLの電子化については、電子ログシステムと密接な関係にあります。各種存在する電子ログパソコンアプリやスマホアプリに電子QSLカード作成機能やSMTPを付加し、相手のメールアドレスを知る仕組みがあれば電子QSLカードを送ることができます。また、クラウド型の電子ログシステムでは、交信データの照合確認機能の付加は容易ですし、電子QSLカード作成機能を付加すれば、交信データの入力終了後速やかに相手に電子QSLカードを届けることが可能となります。それぞれのシステム間での交信データの互換性を確保するためのツールは提供されつつあります。利用者の利便性を考えれば、さらにそれぞれのシステム間のインターオペラビリティの進展もあるかもしれません。

 答申にある電子QSLシステムは、紙のQSLカードの交換をそのまま電子QSLカードの交換に置き換えるものであり、交信データの照合確認、アワード申請への利用などはなく、会員による国内の交信による電子QSLカードの交換のみです。

 答申にある電子QSLシステムの開発着手を決定するためには、上記のような国内外の現状・動向を踏まえて判断することが不可欠です。しかし答申には、他のシステムと電子QSLシステムとの関係に関する評価が記載されておりませんので、開発着手を決定するための情報としては不十分であると考えています。

理事会の役割、理事の権限

 社団法人から一般社団法人となったときに大きく変わったこともあるのかも知れませんが、一般社団法人の理事会の役割や理事の権限が、あまり知られていないようです。

 JARLは平成23年11月に一般社団法人となりました。社団法人に適用される法律は民法でしたが、一般社団法人に適用される法律は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律です。

 17人の理事の内、法人の業務の執行の権限を持つのは、代表理事(会長)と業務執行理事(専務理事)の2人だけです。他の15人の理事には業務執行権はなく、その活動は基本的に理事会の中のみで、議案を提案したり、決議事項や報告事項を審議し、決議事項の議決に関わります。

 理事会の職務には3つあります。

 一つ目は業務執行の決定です。これは例えば予算案や事業計画案を審議して予算や事業計画を決定することです。予算や事業計画に基づき、事業を行い予算を執行するのは、業務執行権限のある理事のみであり、業務執行権限のない理事は、その「決定」に関わるだけです。

 二つ目は理事の職務の監督です。代表理事と業務執行理事の職務には、法人の業務の執行という重要で大きな仕事がありますが、他の15人の理事の職務は理事会の中だけですから、あまり大きなものではありません。従って「理事の職務の監督」の主たる部分は、代表理事と業務執行理事の業務執行状況を理事会が監督するということであり、2人の理事を15人の理事が理事会での審議や決議を通じて監督をするということです。

 三つ目は代表理事と業務執行理事の選定です。

 決議に基づく業務執行の結果に対して損害賠償請求などが発生したときには、その決議において賛成した理事に対しても請求される場合があります。このため議事録では必ず出席した個々の理事の賛否を明確にする必要があります。理事会において監督される業務執行権限のある理事はもちろん、業務執行権限のない理事も緊張感をもって理事会に出席する必要があります。

アマチュア無線による社会貢献

アマチュア無線の社会的な存在価値を高めるためには、欧米で認められているような公益的・公共的な分野でアマチュア局の通信を行うことが可能となるようにすることも一つの方法だと思います。
最近意見募集が行われた電波法施行規則第34条の10に基づく告示案は、アマチュア業務の範囲を少し広げたように思います。アマチュア局の運用には本来資格が必要ですが、その特例として無資格者による運用をできるようにするものであり、これは目的外通信ではなくアマチュア業務の内側です。子供たちが無線技術に対する理解と関心を深めることにより科学技術に興味を持ち、これが理科離れの減少に貢献するとすれば、これもアマチュア無線による社会貢献です。
このように、アマチュア業務の内側で社会貢献となる公益的・公共的な無線通信の可能性については、いろいろ検討の余地があるように思います。