国際電気通信連合(ITU)に関わる活動について

 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、世界193か国の通信行政を担当する行政機関、電気通信や電波に関わる企業、大学、国際機関、地域機関などが参加しています。アマチュア無線に関わるITUの活動では、新規の周波数の分配などが行われる場として、世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conferences)が一番知られていると思いますが、その全体像はあまり知られていないようです。以下に最近のWRCにおけるアマチュア業務への周波数分配などを示します。

 

 WRC-19(2019年世界無線通信会議)10/28-11/22 シャルム・エル・シェイク

   第一地域における50-52MHzへの二次分配(他脚注分配あり)

   最終文書:告示未公布

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.13-2019/en

 WRC-15(2015年世界無線通信会議)11/2-11/27 ジュネーブ

   5351.5-5366.5kHzへの二次分配

   最終文書:平成28年総務省告示第473号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.12-2015/en

 WRC-12(2012年世界無線通信会議)1/23-2/17 ジュネーブ

   472-479kHzへの一次分配

   最終文書:平成24年総務省告示第479号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.9-2012/en

 WRC-07(2007年世界無線通信会議)10/22-11/16 ジュネーブ

   135.7-137.8kHzへの二次分配

   最終文書:平成20年総務省告示第727号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.8-2007/en

 WRC-03(2003年世界無線通信会議)6/9-7/4 ジュネーブ

   7100-7200kHzへの一次分配

   最終文書:平成16年総務省告示第975号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.7-2003/en

 

 WRCはおおむね3年か4年ごとに開催され、「国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則」(RR:Radio Regulations)の改正が審議され決定されます。このRRの第5章に周波数の分配が規定されており、ここにどの無線通信業務にどの周波数帯を分配するかが決められています。WRCの議題は、前回WRCにおいて決議され、その後のITU理事会において、日程、開催場所とともに正式に決定されます。WRCでの審議は、WRCの数か月前に開催される会議準備会合(CPM:Conference Preparatory Meeting)で作成されるCPM報告がベースとなります。CPM報告はWRCの議題ごとに解決案の候補をその技術的根拠ととも示すものであり、この検討は議題別にITUの無線通信部門(Radiocommunication Sector:ITU-R)に設置された6つの研究委員会(SG:Study Group)の下に置かれたWorking Party(WP)で分担して行われ、その検討結果がCPMへ入力され、CPMであらためて検討されて1本のCPM報告としてまとめられます。アマチュア業務やアマチュア衛星業務に関するWRC議題の検討を行うのは、SG5(Study Group 5)の下にあるWorking Party 5A (WP5A)です。以下にWRC-19に入力されたCPM報告を示します。この711ページからWRC-19議題1.1「第一地域における50-54MHzのアマチュア業務への分配」についての記載があります。

 https://www.itu.int/pub/R-ACT-CPM-2019

 ITU-Rの役割は、CPMレポートのための検討を行うだけでなく、周波数の有効利用やより高度な利用のための技術基準の策定、これらの普及周知等を目指して、研究課題(Question)を定め、勧告(Recommendation)、報告(Report)、ハンドブックの策定などを行っています。以下に現在有効なアマチュア業務及びアマチュア衛星業務に関わる研究課題、勧告、報告、ハンドブックを示します。

 

Questions(2件) SG5担当の全体 https://www.itu.int/pub/R-QUE-SG05/en

48-7/5  Techniques and frequency usage in the amateur service and amateur-satellite service

209-6/5  Use of the mobile, amateur and the amateur-satellite services in support of disaster radiocommunications

 

Recommendations(7件) Mシリーズ全体 https://www.itu.int/rec/R-REC-M/en

M.1041 Future amateur radio systems

M.1042 Disaster communications in the amateur and amateur-satellite services

M.1043 Use of the amateur and amateur-satellite services in developing countries

M.1044 Frequency sharing criteria in the amateur and amateur-satellite services

M.1544 Minimum qualifications of radio amateurs

M.1732 Characteristics of systems operating in the amateur and amateur-satellite services for use in sharing studies

M.2034 Telegraphic alphabet for data communication by phase shift keying at 31 baud in the amateur and amateur-satellite services

 

Reports(8件) Mシリーズ全体 https://www.itu.int/pub/R-REP-M/en

M.2085 Role of the amateur and amateur-satellite services in support of disaster mitigation and relief

M.2117 Software-defined radio in the land mobile, amateur and amateur-satellite services

M.2200 Characteristics of amateur radio stations in the range 415-526.5 kHz for sharing studies

M.2203 Compatibility of amateur service stations with existing services in the range 415-526.5 kHz

M.2226 Description of amateur and experimental operation between 415 and 526.5 kHz in some countries

M.2281 Characteristics of amateur radio stations in the range 5 250-5 450 kHz for sharing studies

M.2335 Sharing and compatibility analysis of possible amateur service stations with fixed, land mobile, and radiolocation services in the frequency band 5 250-5 450 kHz and the aeronautical mobile service in an adjacent band

M.2478 Spectrum needs for the amateur service in the frequency band 50-54 MHz in Region 1 and sharing with mobile, fixed, radiolocation and broadcasting services

 

Handbook(1件)

Amateur and amateur-satellite services

 

 WRCでの審議、CPMレポート、勧告、報告等の策定における日本としての対応は、政府を含む国内の利害関係者との調整を経て定められる対処方針に基づきます。ですから国内に利害の対立があるような案件では、特定の企業、団体などの要望がそのまま日本の対処方針になることは難しいです。アマチュア業務に関わる新技術や災害対策に関するものなど国内にあまり利害対立のないものもあります。

 一方でこのような国際会議では、Contribution(寄与文書)を提出しなければ意見の主張はできません。最近の会期のWP5Aにおけるアマチュア業務関係の寄与文書の提出状況は以下のとおりです。

 

2015-2019年

 WP5Aへ提出された全寄与文書1092件(内日本提出70件(共同提案2件を含む))、この内アマチュア業務関係50件(IARU:18、ロシア:6、スイス:5、フランス:5、WP6A:4、WMO:2、オーストラリア:2、カナダ2、スイス・フランス・オランダ・ノルウェー:1、WP5C:1、フランス・スイス:1、WP3K・WP3M:1、USA:1、ウクライナ:1)

2012-2015年

 WP5Aへ提出された全寄与文書744件(内日本提出40件)、この内アマチュア業務関係54件(ロシア:12、USA:12、IARU:9、中国:6、カナダ:5、WP5C:3、WP7C:2、UK・オランダ・ノルウェー:1、TelefonAB-LM Ericsson:1、オランダ:1、ノルウェー:1、WP5B:1)

2007-2012年

 WP5Aへ提出された全寄与文書795件(内日本提出62件)、この内アマチュア業務関係52件(USA:11、カナダ:11、IARU:10、WP5B:3、UK:2、ドイツ:2、オーストラリア:2、WP6A:2、WP5C:2、中国:2、ブラジル:1、ITU-D SG2:1、TelefonAB-LM Ericsson:1、WP3L:1、オランダ・スウェーデン・UK:1)

 

   なお、アマチュア業務関係の寄与文書であるかどうかの判断は、寄与文書の内容は登録したユーザ(TIES User)でないと見えませんが、TIES Userで無くても見ることができる表題から判断しました。また、IARU(International Amateur Radio Union)はITUのSector Memberであり、WP5Aに参加し寄与文書を提出することができます。

 

 JARLからもWP5Aには出席者を出しているようですが、ここ3会期では日本からアマチュア業務関係の寄与文書の提出は全くないです。世界第二位のアマチュア局数を有する国として、もう少し国際貢献と国際会議での存在感を示すことが必要だと思います。