WRC-23議題9.1-bについて

WRC-23(2023年世界無線通信会議)議題9.1-b「決議774(WRC 19)に従い、同一周波数帯内で運用する無線航行衛星(宇宙から地球)業務を保護するために追加の措置が必要かどうかを判断するために、1240-1300 MHzの周波数帯におけるアマチュア業務とアマチュア衛星業務の分配を見直すこと。」について

 決議774(WRC-19)はWRC-19最終文書にあり、これは総務省告示第413号(令和2年12月24日)で和訳されて公開されており、以下のとおりです。

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 また、この議題については、政府の考え方が今年2月7日付総務省報道資料で以下のとおり示されています。

総務省|報道資料|2023年世界無線通信会議(WRC-23)に向けた我が国の考え方(案)に係る意見募集の結果 (soumu.go.jp)

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<我が国の考え方>
 日本は、準天頂衛星システムにおいて無線航行衛星業務(RNSS)(宇宙から地球)の局(受信機)が運用されていることから、ITU-R における 1240-1300 MHz 帯に二次分配されているアマチュア業務及びアマチュア衛星業務から無線航行衛星業務(RNSS)(宇宙から地球)の局(受信機)の保護を確保するための検討の継続を支持する。また、ITU-R における検討において状況次第でRNSS受信機への干渉が発生するとの結果が示されていることを踏まえ、RNSS 受信機を保護するためのガイドラインを提供する ITU-R 勧告の作成を支持する。
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 11月13日から開催されたRA-23(2023年無線通信総会)が11月17日に終了し、翌週11月20日からWRC-23がドバイで開催されています。RAとWRCは通常連続して開催されており、ざっくり言えば、RAの主な役割はITU無線通信部門(ITU-R)の勧告(Recommendation)の制定や改定であり、WRCの主な役割は、無線通信規則(RR:Radio Regulations)改正です。

 

 RRは、国際電気通信連合(ITU)憲章の規定に基づき、ITU加盟国を拘束しますが、ITU-R勧告はITU加盟国を拘束しません。しかし、RRの規定でITU-R勧告が参照されて勧告の記載内容がITU加盟国に対して拘束力を持つことがあります。

 議題9.1-bは、議題9の中のひとつであり、議題9は「ITU 条約第 7 条に従い、無線通信局長報告を検討し承認すること」ですから、この議題のWRC-23での結論としてRRが改正されることはないと考えられます。議題9.1-b中の決議774(WRC 19)においても「これらの研究の結果をWRC-23への報告書に盛り込むよう、無線通信局長に指示する。」にとどまります。

 

 以下の「Final CPM Report for WRC-23」は、ジュネーブで今年3月27日から4月6日まで開催されたCPM-23(WRC-23準備会合)の出力文書であり、WRC-23への入力文書となります。

[1]  Final CPM Report for WRC-23 (itu.int)

このCPM報告の議題9.1-bのサマリには以下のように記載されています。
これがWRC-23における議論の出発点となると考えられます。
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二次的基礎で運用されているアマチュア局から一次基礎で運用されているRNSS(宇宙から地球へ)受信機への送信によって引き起こされた有害な干渉のいくつかのケースが、2つの国で観測され、文書化され、報告されている。詳細はITU R M.2513に記載されている。
勧告ITU R M.1902は、研究を行う際に考慮されたバンド1 215-1 300 MHzで動作する無線航行衛星業務(宇宙から地球)受信地球局の特性と保護基準を規定している。ITU R M.2513で発表されたこれらの研究と測定は、潜在的な干渉距離の推定を提供し、干渉の影響が一般的に帯域幅、干渉信号の電力だけでなく、アンテナの設置高さにも依存することを確認した。さらに、これらの研究と測定は、RNSS(宇宙から地球)の受信機保護基準が、典型的なアマチュア局からの同一周波数の送信によって超える可能性があることを予測した。運用データから、周波数帯域1 240-1 300 MHz全体で活発に送信している局の数は比較的少なく、運用特性から、最も一般的なアマチュア局からの送信は持続時間も長くなく、RNSSとの互換性を達成するのに役立つ可能性がある。
ITU Rは、将来的にRNSS(宇宙から地球)受信機への有害な干渉を回避するためのガイドラインを提供する勧告ITU R M.[AS.GUIDANCE]を策定中である。この勧告には、検討中の帯域におけるRNSS(宇宙から地球)受信機の保護を強化するため、RNSS信号のスペクトラムメインローブから十分な周波数オフセットを持つ特定のサブバンドを使用するようアマチュアおよびアマチュア衛星業務を奨励すること、最大送信電力レベルおよび送信帯域幅の制限を含めることができる。
これらのガイドラインは、周波数帯域1 240-1 300 MHzにおけるRNSS(宇宙から地球)の保護を確保するために、主管庁とアマチュア及びアマチュア衛星サービスを支援することを目的としている。
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上記中「勧告ITU R M.[AS.GUIDANCE]」がRA-23で承認されて正式に「ITU-R M.2164-0」となりました。

Recommendation ITU-R M.2164-0 (11/2023) - Guidance on technical and operational measures for the use of the frequency band 1 240-1 300 MHz by the amateur and amateur-satellite service in order to protect the radionavigation-satellite service (space-to-Earth)

 

 議題9.1-bは本来RRの改正を目指すものではないと思います。次のWRC-27の議題は、WRC-23で決議として採択されて、ITU理事会で正式に決定されますが、「勧告ITU-R M.2164-0」を踏まえたRRの改正を目的とするWRC-27の議題が採択されるのかもしれません。一方、早くRNSSを保護したいとする国はWRC-23でRRを改正しようとするのかもしれません。