JARL理事会の課題(協議事項の存在)

 

 理事会の議題は基本的に「決議事項」及び「報告事項」のみです。決議事項は、例えばある事業を着手するための計画案(目的・必要性、内容、期間、支出・収入見込など)が議案として理事会に提案され、これを審議の後計画案が妥当であると議決されれば、事業着手を決定する事項であり、報告事項は、例えばある事業の実施状況について理事会へ報告が行われこれを審議する事項です。

 審議とは、決議事項又は報告事項として提案された議案の内容について、その問題点などその内容、成果等の良し悪しについて議論を行うことです。決議事項においては、例えばある事業を着手するための計画案が議案であるときに、審議の後問題点などがあることが明らかとなり、修正案が議案として提案されて理事会で議決されれば当該事業の計画は修正されます。報告事項においては、例えば当該報告が進行中の事業に関するものであって、審議により事業に問題点があることが明らかとなり、この事業の中止を代表理事へ指示する議案が提案され、これが議決されれば当該事業が中止されます。審議は、一般法人法に定める理事会の職務である「業務執行の決定」及び「理事の職務執行の監督」を達成するための重要な行為です。

 JARLの理事会の議題には「協議事項」という「決議事項」及び「報告事項」ともつかないカテゴリがあります。第45回理事会で提案のあった「ハムフェア20192020の中止」はこの「協議事項」の中で口頭により行われたものです。当初は状況報告のように見えたのですが、これは理事会の承認を求めているものかとの問いには是との回答があり、それならば決議事項とすべきと指摘しました。

 「協議事項」は、決議事項であるか報告事項であるかを曖昧にしており、廃止すべきと主張しましたが継続しております。

 なお、理事間で情報交換や意見交換を行い、共通認識を醸成する場を設けることについては全く問題ないですが、その場は一般法人法に定められた「理事会」ではありませんので、理事会の議題とすべき「決議事項」や「報告事項」をこの場に持ち出すことはできません。

 

2020.4.5 誤りがありましたので修正しました。「2019」→「2020」

JARLの委員会における課題

 JARLには複数の委員会が設置されています。委員会については、「定款」、「規則」及び「委員会の設置及び運用に関する規程」に規定があります。

 定款第66条第1項で定める「専門の事項に関し、理事会を補佐するために委員会を設ける」及び委員会の設置及び運用に関する規程第2条で定める「連盟の行う事業に関して専門的事項について理事会の諮問事項を検討」の意味する委員会の任務は、理事会による業務執行の決定のための審議を効率よく行うためのものであると考えられます。17人の理事のうち16人が非常勤であり、理事会の開催も年5~6回程度ですので、全ての案件の検討を理事会の中だけで完結させることは不可能です。

 委員会は理事会から諮問された事項に関し、関係する情報の収集・調査・分析、関係者や有識者からの意見聴取等行い、諮問事項に関わる論点を整理して、選択肢がある場合にはそのメリット・ディメリットの比較検討を行い、これらを総合的に評価し論理的・合理的に検討して結論の案をその理由・根拠とともに記載した文書が理事会への答申です。理事会は答申をベースに審議し、業務執行の決定を行うのですから、委員会の答申はJARLの運営において非常に重要なものとなります。

 しかし、私が出席した理事会において、委員会からの答申が文書化されておらず、口頭説明だけであるものがあったこと、答申が結論だけで理由の説明がないものがありました。このため、理事会での審議が白紙からの議論となり、委員会での検討がほとんど無意味となるケースがありました。答申がその理由・根拠とともに文書化されていなければ、過去の業務執行の決定の経緯をレビューすることもできません。

 また、規則第34条では「年度を越えて検討を継続する場合には、各年度ごとに中間報告を行わなければならない。」と規定されていますが、中間報告はほとんど行われておらず、個々の諮問に対する検討の進捗状況が全く把握できない状況です。理事会が検討状況をみて、委員会に対して追加の検討を要請する場合や検討の方向性を修正することもあり得ます。

 委員会への諮問、委員会からの答申及び中間報告の適正化を図るため、第48回理事会へ以下の議案の提案をしましたが残念ながら否決されました。

 「委員会への諮問及び委員会からの答申の適正化を図るための理事会規定及び委員会の設置及び運用に関する規程の一部改正並びに委員会からの中間報告の徹底について」

 定款の規定にあるとおり委員会は答申を通じて理事会を補佐し、法人としての意思決定に関わる重要な役割を負うものです。今後も委員会の運営の適正化に努力したいと考えています。

 

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定 款(抄)

第66条 本連盟は、専門の事項に関し、理事会を補佐するために委員会を設ける。
2 委員会には、委員長1名、委員若干人を置く。
3 委員長は、会員の中から理事会の決議を経て選任し、委員は、委員長の推薦によって会長が委嘱する。

 

規 則(抄)

第9章 委員会
(委員会の報告)
第34条 連盟が設置した委員会が設置目的である検討事項の検討を完了したときは、委員長から会長に報告書を提出するものとする。なお、年度を越えて検討を継続する場合には、各年度ごとに中間報告を行わなければならない。
(解散)
第35条 会長は、委員長から検討完了の報告を受けた時は、理事会に諮ってこれを解散することができる。

 

委員会の設置及び運用に関する規程

(目的)
第1条 この規程は、定款第66条の規定に基づき、委員会の設置及び運用に関し定めることを目的とする。
(委員会の任務)
第2条 委員会は、連盟の行う事業に関して専門的事項について理事会の諮問事項を検討し又は事務局の業務の一部について、その処理を援助するものとする。
(実務委員会)
第3条 前条の事務局の業務の一部についてその処理を援助する委員会の設置及び運用に関しては、委員会ごとに定める。
(委員会の設置)
第4条 委員会は、理事会の決定により設置される。
2 委員会の設置期間は、原則として理事会がその設置を決定した日から、役員の任期満了により改選された新役員による理事会において委員会の設置が決定されるまでの間とする。なお、同日以降引き続き委員会を存置しようとするときは、理事会の決定に基づき新たな委員会として設置し、その任務を引き継ぐものとする。
3 委員会が、その任務を達成したとき又は理事会が委員会の存続の必要がないと認めた時 は、前項の規定にかかわらず期間中であっても、当該委員会を廃止することができる。
4 委員会の必要とする設置期間を見込める場合は、第2項前段の規定にかかわらず、その期間を限定した委員会を設置することができる。
(委員会の構成)
第5条 委員会は、委員長及び委員をもって構成する。
2 委員会に顧問をおくことができる。
3 会長は、理事会の推薦に基づき、委員長及び顧問を人選し、当人の同意を得て、それぞれその職を委嘱する。
4 会長は、委員長の推薦に基づき、専務理事と協議して委員を人選し、当人の同意を得て、 その職を委嘱する。
5 委員長及び委員は、正員である者とする。
(委員長の解職)
第6条 会長は、委員会が廃止されたときは委員長、委員及び顧問を解職するものとする。
2 理事会は、委員長又は顧問がその職に不適任と認めたときは会長に委員長又は顧問の解職を要請することができる。
3 会長は、前項の要請があったときは委員長又は顧問を解職することができる。
4 委員長は、その職に不適任と認めた委員の解職を会長に要請することができる。
5 会長は、前項の要請があったときは専務理事と協議し、当該委員を解職することができる。
(委員会の開催)
第7条 委員長は、専務理事と協議し、委員会を開催する。
2 理事会は、必要と認めたときは委員会の開催を要求することができる。
3 前項の要求があったときは、委員長は速やかに委員会を開催しなければならない。
4 委員会は、必要があるときは参考人の出席を求め、意見を聴取することができる。
(文書委員会)
第8条 委員会は、文書による委員会を開催することができる。
2 前項の委員会の開催には、前条第1項の専務理事との協議は要しないものとする。
(分科会)
第9条 委員会は、必要により分科会を置くことができる。
2 分科会は、委員長の指名する委員及び学識経験がある専門委員をもって構成する。
3 会長は、委員長の推薦に基づき、学識経験がある者から専門委員を人選し、当人の同意を得て、その職を委嘱する。
4 分科会に長を置き、委員長の指名する委員がこれに当たる。
5 専門委員の任期は、その分科会の属する委員会の委員の任期に同じとする。
6 会長は、委員長の報告により、分科会が廃止されたとき又は専門委員としての任務を達成したと認めるときは、前項の規定にかかわらず、その専門委員を解職するものとする。
7 第6条第4項及び第5項の規定は、専門委員の場合に準用する。
8 分科会の運営に関し必要な事項は、委員長が定める。
(報告)
第10条 委員長は、委員会を開催したときは委員会の検討結果及びその結果を、その都度会長に報告するものとする。
2 前項の検討の結果、諮問事項について結論を得たときは、結論を会長に答申するものとする。この場合、委員会の存置又は廃止についての意見を答申に付するものとする。
3 理事会は、第1項の報告又は前項の答申について、委員長の出席を求め、説明を要求することができる。
(内規)
第11条 委員会の内規は、委員長が専務理事と協議し作成するものとする。
(委員会の事務)
第12条 委員会の事務は、事務局があたるものとする。

附 則
 この規程は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号)第121条第1項において読み替えて準用する第106条第1項に定める一般社団法人の設立の登記の日から施行する。

国際電気通信連合(ITU)に関わる活動について

 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、世界193か国の通信行政を担当する行政機関、電気通信や電波に関わる企業、大学、国際機関、地域機関などが参加しています。アマチュア無線に関わるITUの活動では、新規の周波数の分配などが行われる場として、世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conferences)が一番知られていると思いますが、その全体像はあまり知られていないようです。以下に最近のWRCにおけるアマチュア業務への周波数分配などを示します。

 

 WRC-19(2019年世界無線通信会議)10/28-11/22 シャルム・エル・シェイク

   第一地域における50-52MHzへの二次分配(他脚注分配あり)

   最終文書:告示未公布

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.13-2019/en

 WRC-15(2015年世界無線通信会議)11/2-11/27 ジュネーブ

   5351.5-5366.5kHzへの二次分配

   最終文書:平成28年総務省告示第473号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.12-2015/en

 WRC-12(2012年世界無線通信会議)1/23-2/17 ジュネーブ

   472-479kHzへの一次分配

   最終文書:平成24年総務省告示第479号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.9-2012/en

 WRC-07(2007年世界無線通信会議)10/22-11/16 ジュネーブ

   135.7-137.8kHzへの二次分配

   最終文書:平成20年総務省告示第727号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.8-2007/en

 WRC-03(2003年世界無線通信会議)6/9-7/4 ジュネーブ

   7100-7200kHzへの一次分配

   最終文書:平成16年総務省告示第975号

   https://www.itu.int/pub/R-ACT-WRC.7-2003/en

 

 WRCはおおむね3年か4年ごとに開催され、「国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則」(RR:Radio Regulations)の改正が審議され決定されます。このRRの第5章に周波数の分配が規定されており、ここにどの無線通信業務にどの周波数帯を分配するかが決められています。WRCの議題は、前回WRCにおいて決議され、その後のITU理事会において、日程、開催場所とともに正式に決定されます。WRCでの審議は、WRCの数か月前に開催される会議準備会合(CPM:Conference Preparatory Meeting)で作成されるCPM報告がベースとなります。CPM報告はWRCの議題ごとに解決案の候補をその技術的根拠ととも示すものであり、この検討は議題別にITUの無線通信部門(Radiocommunication Sector:ITU-R)に設置された6つの研究委員会(SG:Study Group)の下に置かれたWorking Party(WP)で分担して行われ、その検討結果がCPMへ入力され、CPMであらためて検討されて1本のCPM報告としてまとめられます。アマチュア業務やアマチュア衛星業務に関するWRC議題の検討を行うのは、SG5(Study Group 5)の下にあるWorking Party 5A (WP5A)です。以下にWRC-19に入力されたCPM報告を示します。この711ページからWRC-19議題1.1「第一地域における50-54MHzのアマチュア業務への分配」についての記載があります。

 https://www.itu.int/pub/R-ACT-CPM-2019

 ITU-Rの役割は、CPMレポートのための検討を行うだけでなく、周波数の有効利用やより高度な利用のための技術基準の策定、これらの普及周知等を目指して、研究課題(Question)を定め、勧告(Recommendation)、報告(Report)、ハンドブックの策定などを行っています。以下に現在有効なアマチュア業務及びアマチュア衛星業務に関わる研究課題、勧告、報告、ハンドブックを示します。

 

Questions(2件) SG5担当の全体 https://www.itu.int/pub/R-QUE-SG05/en

48-7/5  Techniques and frequency usage in the amateur service and amateur-satellite service

209-6/5  Use of the mobile, amateur and the amateur-satellite services in support of disaster radiocommunications

 

Recommendations(7件) Mシリーズ全体 https://www.itu.int/rec/R-REC-M/en

M.1041 Future amateur radio systems

M.1042 Disaster communications in the amateur and amateur-satellite services

M.1043 Use of the amateur and amateur-satellite services in developing countries

M.1044 Frequency sharing criteria in the amateur and amateur-satellite services

M.1544 Minimum qualifications of radio amateurs

M.1732 Characteristics of systems operating in the amateur and amateur-satellite services for use in sharing studies

M.2034 Telegraphic alphabet for data communication by phase shift keying at 31 baud in the amateur and amateur-satellite services

 

Reports(8件) Mシリーズ全体 https://www.itu.int/pub/R-REP-M/en

M.2085 Role of the amateur and amateur-satellite services in support of disaster mitigation and relief

M.2117 Software-defined radio in the land mobile, amateur and amateur-satellite services

M.2200 Characteristics of amateur radio stations in the range 415-526.5 kHz for sharing studies

M.2203 Compatibility of amateur service stations with existing services in the range 415-526.5 kHz

M.2226 Description of amateur and experimental operation between 415 and 526.5 kHz in some countries

M.2281 Characteristics of amateur radio stations in the range 5 250-5 450 kHz for sharing studies

M.2335 Sharing and compatibility analysis of possible amateur service stations with fixed, land mobile, and radiolocation services in the frequency band 5 250-5 450 kHz and the aeronautical mobile service in an adjacent band

M.2478 Spectrum needs for the amateur service in the frequency band 50-54 MHz in Region 1 and sharing with mobile, fixed, radiolocation and broadcasting services

 

Handbook(1件)

Amateur and amateur-satellite services

 

 WRCでの審議、CPMレポート、勧告、報告等の策定における日本としての対応は、政府を含む国内の利害関係者との調整を経て定められる対処方針に基づきます。ですから国内に利害の対立があるような案件では、特定の企業、団体などの要望がそのまま日本の対処方針になることは難しいです。アマチュア業務に関わる新技術や災害対策に関するものなど国内にあまり利害対立のないものもあります。

 一方でこのような国際会議では、Contribution(寄与文書)を提出しなければ意見の主張はできません。最近の会期のWP5Aにおけるアマチュア業務関係の寄与文書の提出状況は以下のとおりです。

 

2015-2019年

 WP5Aへ提出された全寄与文書1092件(内日本提出70件(共同提案2件を含む))、この内アマチュア業務関係50件(IARU:18、ロシア:6、スイス:5、フランス:5、WP6A:4、WMO:2、オーストラリア:2、カナダ2、スイス・フランス・オランダ・ノルウェー:1、WP5C:1、フランス・スイス:1、WP3K・WP3M:1、USA:1、ウクライナ:1)

2012-2015年

 WP5Aへ提出された全寄与文書744件(内日本提出40件)、この内アマチュア業務関係54件(ロシア:12、USA:12、IARU:9、中国:6、カナダ:5、WP5C:3、WP7C:2、UK・オランダ・ノルウェー:1、TelefonAB-LM Ericsson:1、オランダ:1、ノルウェー:1、WP5B:1)

2007-2012年

 WP5Aへ提出された全寄与文書795件(内日本提出62件)、この内アマチュア業務関係52件(USA:11、カナダ:11、IARU:10、WP5B:3、UK:2、ドイツ:2、オーストラリア:2、WP6A:2、WP5C:2、中国:2、ブラジル:1、ITU-D SG2:1、TelefonAB-LM Ericsson:1、WP3L:1、オランダ・スウェーデン・UK:1)

 

   なお、アマチュア業務関係の寄与文書であるかどうかの判断は、寄与文書の内容は登録したユーザ(TIES User)でないと見えませんが、TIES Userで無くても見ることができる表題から判断しました。また、IARU(International Amateur Radio Union)はITUのSector Memberであり、WP5Aに参加し寄与文書を提出することができます。

 

 JARLからもWP5Aには出席者を出しているようですが、ここ3会期では日本からアマチュア業務関係の寄与文書の提出は全くないです。世界第二位のアマチュア局数を有する国として、もう少し国際貢献と国際会議での存在感を示すことが必要だと思います。

 

 

非常通信について

 過去数々の実績と成果があり、アマチュア局による社会貢献の最たるものだろうと思います。

 電波法第52条で、無線局は「免許状に記載された目的又は通信の相手方若しくは通信事項の範囲を超えて運用してはならない。」と規定され、無線局の目的外使用が禁止されていますが、その例外として同条第4号で非常通信が認められています。非常通信は、地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる無線通信と規定しています。

 この条文をそのまま読むと、非常通信を行うための前提条件がかなり厳しいと思われますが、以下の総務省の説明にあるように、この規定の運用はかなり柔軟に行われているようです。

www.tele.soumu.go.jp

 大災害発生時等において、非常通信を円滑にかつ効率よく行うためには、非常通信を行う際の体制整備を事前に行うことが不可欠です。

 災害対策基本法に基づき内閣府に置かれた中央防災会議が作成する災害対策基本計画では、「第2編 各災害に共通する対策編」・「第6節 迅速かつ円滑な災害応急対策,災害復旧・復興への備え」・「2 情報の収集・連絡及び応急体制の整備関係」・「(3) 通信手段の確保」に以下の記載があります。

www.bousai.go.jp

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○国,地方公共団体等は,災害時の情報通信手段について,平常時よりその確保に努め,その整備・運用・管理等に当たっては,次の点について十分考慮するものとする。

(前略)

・携帯電話・衛星携帯電話等の電気通信事業用移動通信,業務用移動通信,アマチュア無線等による移動通信系の活用体制について整備しておくこと。なお,アマチュア無線の活用は,ボランティアという性格に配慮すること。

(後略)

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 基礎自治体の防災会議が災害対策基本法に基づき作成する地域防災計画において、アマチュア無線団体を災害発生時の情報の収集・集約、防災関係機関等への情報提供を行う団体として明確に位置付けて、その団体に対して他の防災関係機関と同様に260MHz帯防災行政無線の陸上移動局を配置している例があります。

 災害発生時等における基礎自治体との協力連携の体制整備は、既に様々な形で行われていると思いますが、ここ数年大災害の発生が連続していることもあり、アマチュア無線の社会的存在意義の向上のためには非常に有効です。

 なお、電波法第74条第1項の「非常の場合の無線通信」は、アマチュア局において行われたことは過去一度もないと思います。

免許制度の簡素化について その2

 前にも書きましたように、欧米のような免許制度へ一挙に変わることは極めて難しい状況です。しかし、段階的にはあり得るのではないかと考えています。

 移動する無線局であるアマチュア局の工事設計書では、「送信空中線の型式」を空欄とすることができます。空欄にすれば「送信空中線の型式」は、特定の型式に限定されないことになります。つまり何ら手続きなしに空中線の型式を変更できるということです。

 例えばこれを拡大して、無線設備が適合表示無線設備(技術基準適合証明を受けた無線設備、工事設計認証を受けたメーカー等が製造した無線設備等)であるときに、工事設計書における当該無線設備に関する記載を省略することができれば、運用する設備が適合表示無線設備である限り無線設備の変更手続きは不要になります。

 指定事項における電波の型式は、電波の型式を表示する記号が告示で定められており、一つの記号に複数の電波の型式を含む包括的な表示としております。既に指定されている記号に含まれる電波に型式であれば、これまで電波が発射できない電波の型式を追加する場合であっても指定事項の変更手続きは生じません。

 例えばこれを拡大して、指定事項については、その免許申請者又は免許人が持つ資格の範囲で通常免許される空中線電力、電波の型式及び周波数を全て指定すれば、上位資格を取得しない限り指定事項の変更は生じないでしょう。

 無線設備が適合表示無線設備であるという前提条件を置く時点で、免許人の自己管理という制度からは程遠いものとなります。また、容易には実現できないかも知れませんが、もし実現すれば相当な手続きの簡素化になるだろうと思います。

免許制度の簡素化について

 現在の日本の制度では、アマチュア局を開設するときには、無線設備が技術基準に適合していることを示すための手続きが必要となります。無線局を開設後、無線設備を変更する場合には、変更の内容によって、届出でよい場合、事前に許可が必要となる場合がありますが、変更後の無線設備が技術基準に適合していることを示す手続きが必要となります。

 これらの手続きとは、無線設備が適合表示無線設備(技術基準適合証明を受けた無線設備、工事設計認証を受けたメーカー等により製造された無線設備等)であることを示すこと、検査(一部を登録検査等事業者による点検とする場合を含む。)を受けること、無線設備の保証を受けることです。無線設備の変更により指定事項(周波数、電波の型式、空中線電力)が変更となるときには、さらに指定事項の変更のための手続きが必要となります。

 欧米のアマチュア無線の制度においては、無線設備の技術基準適合遵守を免許申請者や免許人の自己責任として技術基準適合を示す手続きを不要とし、また、無線局の免許において周波数、電波の型式、空中線電力の指定をしないという制度があります。

 欧米のような制度を日本で実現するためには、アマチュア局をアマチュア業務以外の無線通信業務の無線局に対して特別扱いをしなければなりません。アマチュア局から他の無線通信業務の無線局への干渉の可能性が特別低いということはなく、アマチュア局免許人が他の無線通信業務の無線局免許人に比べて技術基準適合管理に特別高い能力を持つということもないでので、アマチュア局を特別扱いする合理的な理由を見出すことは困難です。日本の現在の制度の枠の中で検討する限りは、このような欧米の制度を導入する可能性は極めて低いだろうと思います。

 しかし欧米のような制度が現に存在しており、これが世界的に主流となっている制度であると主張できれば、日本も世界のスタンダードに従うべきという主張は可能です。このような主張によりハードルがたちどころに下がるという可能性は低いと思いますが、他に主張できる根拠が見当たらないというのも現実です。

 欧米のような制度の実現を今後とも要望し続けることはもちろん必要ですが、一方で可能性のあるところから制度の簡素化を達成していくことが重要です。

電子QSLシステムに関する答申について

 

 QSLの電子化(電子QSLカードの交換、交信データの電子的照合確認)は世界的な動向であり、これを否定する余地はないと考えます。電子QSLカードの交換を行わない場合であっても、照合確認結果がアワードの申請に利用されるのであれば、QSLカードの交換と同じ意味を持ちます。一方で、JARLと各国アマチュア団体等との紙QSLカード転送業務は、両者にその希望がある限りは継続されるでしょう。また、国内の会員間の紙QSLカードの転送業務も会員にその希望がある限りは継続するでしょうから、転送数は減少しても紙QSLカード転送業務が全廃することはないと思われます(紙QSLカード2018 年度転送実績:国内793 万、国際135万)。

 QSLの電子化については、電子ログシステムと密接な関係にあります。各種存在する電子ログパソコンアプリやスマホアプリに電子QSLカード作成機能やSMTPを付加し、相手のメールアドレスを知る仕組みがあれば電子QSLカードを送ることができます。また、クラウド型の電子ログシステムでは、交信データの照合確認機能の付加は容易ですし、電子QSLカード作成機能を付加すれば、交信データの入力終了後速やかに相手に電子QSLカードを届けることが可能となります。それぞれのシステム間での交信データの互換性を確保するためのツールは提供されつつあります。利用者の利便性を考えれば、さらにそれぞれのシステム間のインターオペラビリティの進展もあるかもしれません。

 答申にある電子QSLシステムは、紙のQSLカードの交換をそのまま電子QSLカードの交換に置き換えるものであり、交信データの照合確認、アワード申請への利用などはなく、会員による国内の交信による電子QSLカードの交換のみです。

 答申にある電子QSLシステムの開発着手を決定するためには、上記のような国内外の現状・動向を踏まえて判断することが不可欠です。しかし答申には、他のシステムと電子QSLシステムとの関係に関する評価が記載されておりませんので、開発着手を決定するための情報としては不十分であると考えています。